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新潟地方裁判所 昭和44年(ワ)319号 判決 1971年8月27日

原告

佐々木久夫

ほか三名

被告

神林昭夫

ほか四名

主文

被告神林昭夫、同藤田勝、同大黒雅実の三名は、各自、

原告佐々木久夫に対し金八四万五、〇三二円、

原告佐々木京子に対し金七七万一、一五六円、

原告佐々木真弓に対し金一六万一、八六一円、

原告佐々木晃一に対し金一七二万〇、一四二円

および右各金員に対する昭和四四年三月一一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの右被告ら三名に対するその余の請求および被告新潟市場運送株式会社、同佐川良輝に対する請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用中、原告らと被告神林昭失、同藤田勝、同大黒雅美との間に生じたものは右被告らの負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じたものは原告の負担とする。この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は、「被告らは各自、原告佐々木久夫に対し金八四万五、〇三二円、同佐々木京子に対し金一一五万九、八六二円、同佐々木真弓に対し金三〇万円、同佐々木晃一に対し金九一二万四、六〇一円および右各金員に対する昭和四四年三月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに第一項につき仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告らの身分関係

原告佐々木久夫(以下原告久夫という。)は株式会社真柄商店に勤務しているもの、原告佐々木京子(以下原告京子という。)は原告久夫の妻で肩書住所で美容院を経営しているもの、原告佐々木真弓(以下原告真弓という。)は原告久夫、同京子の長女(昭和四〇年一月三日生)であり、原告佐々木晃一(以下原告晃一という。)は原告久夫、同京子の長男(昭和四二年六月一五日生)である。

二、事故の発生

原告久夫は、昭和四四年三月一一日午後九時四五分頃原告京子、同真弓、同晃一を軽四輪貨物自動車(以下原告車という。)に同乗させ、国道八号線を新潟市方面から白根市方面に向け運行し、西蒲原郡黒埼村大字金巻三、五八六番二附近交差点を島原部落方向に右折しようとしたところ、被告神林昭夫(以下被告神林という。)運転にかかる大型貨物自動車(以下原告車という。)に後方から追突され、原告車はその場に横転し(以下本件事故という。)、よつて、原告久夫は脳震盪症、左頭部打撲症(皮下出血)右肩胛部右胸背部打撲傷(皮下出血)、尾首打撲傷、原告京子は脳震盪症、右前頭部打撲傷(皮下血腫)、下口唇裂創、左手背部打撲傷(皮下出血)、原告真弓は両斜膝関節打撲傷、原告晃一は右眼球破裂、上下眼瞼裂傷により右眼球内容除去(右眼失明)の各傷害を負つた。

三、被告らの責任

(一)  本件事故は被告神林が飲酒して被告車を運転し、前方注視義務を怠つたことにより発生したもので、同被告の過失によるものである。

(二)  被告新潟市場運送株式会社(以下被告会社という。)は、被告車を自己のため運行の用に供していたものである。すなわち、被告会社は運送業を営むものであるところ、被告神林、同藤田、同大黒、同佐川に対しその指揮監督のもとに品物を運搬させていたものであるところ、本件事故当日は、被告神林、同藤田に対し東京から新潟まで鉄材を運搬することを命じたもので、本件事故はその往路の出来事である。したがつて、本件事故に際しての被告車の運行は、被告会社の運行計画にもとづいて被告会社のためになされたものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)三条所定の運行供用者として、仮にそうでないとしても、被告神林を使用して事業の執行にあたらせていたものであるから民法七一五条に基き、後記損害を賠償すべき責任がある。

(三)  被告藤田、同大黒は被告神林とともに共同で被告車を購入したもので、右被告両名は被告車の共同所有者であるから、自賠法三条所定の運行供用者である。

(四)  被告佐川は、前記被告らが被告車を購入するに際し、同被告では信用がなかつたので、被告佐川が右売買契約の保証人となつたばかりでなく、自賠責保険の保険契約者となつたうえ、その代金をも支払つたのであるから、結局、被告佐川は被告車の共同購入者の一員であり、自賠法三条所定の運行供用者に該当する。

四、損害

(一)  原告久夫の損害

(1)  同原告の小山病院の治療費(昭和四四年三月一二日から同年四月一二日まで) 金一四万四、二〇〇円

(2)  同原告の小山病院の治療費(同年四月一三日から同年五月一二日まで) 金七万四、六九二円

(3)  同原告の新潟大学医学部附属病院の治療費 金五、七七五円

(4)  原告久夫、同京子、同真弓、同晃一の大野町大篠医院治療費 金二、二八〇円

(5)  原告真弓の小山病院の治療費(昭和四四年三月一二日から同年四月二〇日まで) 金二万二、四三四円

(6)  同原告の前記附属病院の治療費 金三、四六二円

(7)  原告晃一の右附属病院の治療費 金一万四、六九九円

(8)  同原告の義眼代 金七、〇〇〇円

(9)  原告久夫の眼鏡代 金一万四、九〇〇円

(10)  同原告の入院中のパジヤマ、シーツ代 金三、八〇〇円

(11)  交通費(小山病院及び前記附属病院通院のためのタクシー代) 金二万一、六九〇円

(12)  附添人費用

(イ) 岩野サダに対する日当一日一、二〇〇円(二〇日分) 金二万四、〇〇〇円

(ロ) 渡辺和子に対する日当一日一、二〇〇円(二〇日分) 金二万四、〇〇〇円

(13)  雑費(一日金二〇〇円として五五日分) 金一万一、〇〇〇円

(14)  逸失利益

原告久夫は株式会社真柄商店に勤務し本給三万三、〇〇〇円、付加給月額六、〇〇〇円(昭和四四年一ないし三月の平均)を支給されているところ、本件事故による入院、通院のために昭和四四年三月一二日から同年五月末まで欠勤し、そのため、同年三月分本給一万九、一〇〇円、同年四、五月分各金三万三、〇〇〇円、付加給三月分四、〇〇〇円、同四、五月分各六、〇〇〇円合計金一〇万一、一〇〇円の給料を得ることができず、同額の損害を蒙つた。

(15)  慰藉料

(イ) 原告久夫固有の慰藉料

同原告は前記各傷害を負つて入院したが、退院後も快慈せず、胸部、肩部に疼痛があり、現在温泉療法をしているがいまだに治癒の見込はなく、焦操不安の生活を余儀なくされている。よつて、これが慰藉料は金五〇万円が相当である。

(ロ) 原告晃一の負傷による慰藉料

原告晃一は本件事故のため右眼を失い不具者となつたことは親としてのれんびんの情耐え難く、愛児の不幸を日々目のあたりに見るのは苦痛この上なく、これが慰藉料は金五〇万円をもつて相当とする。

(二)  原告京子の損害

(1)  同原告の小山病院の治療費(昭和四四年三月一二日から同年四月一二日まで) 金一五万五、〇六四円

(2)  同原告の小山病院の治療費(同年四月一三日から同年五月一二日まで) 金一〇万〇、三二八円

(3)  同原告の前記附属病院の治療費(同年三月一二日、一三日分) 金八、九四九円

(4)  同原告の前記附属病院の治療費(同年四月一八日から同年五月一六日まで) 金一万〇、五二一円

(5)  雑費(一日金二〇〇円として三〇日分) 金六、〇〇〇円

(6)  逸失利益

原告京子は肩書住所で美容院を経営し、月収金三万円の所得を得ていたところ、本件事故による入院、通院のため昭和四四年三月一二日から同年五月末まで休業し、そのため同年三月分として金一万九、〇〇〇円、同年四、五月分として各金三万円合計七万九、〇〇〇円の収入を得ることができず、同額の損害を蒙つた。

(7)  慰藉料

(イ) 原告京子固有の慰藉料

同原告は前記各傷害を負つて入院したが、退院後も快癒せず頭痛にさいなまれ、現在温泉療法をしているが、いまだに治癒の見込はなく焦燥不安の生活を余儀なくされている。よつてこれが慰藉料は金五〇万円が相当である。

(ロ) 原告晃一の負傷による慰藉料

原告晃一は本件事故のため右眼を失い、前記原告久夫と同様親として苦痛この上なく、これが慰藉料は金五〇万円が相当である。

(三)  原告真弓の損害

同原告は前記傷害を負つて入院したが退院後も快癒せず、時折夜間恐怖におそわれることがあり、著しい精神的苦痛を蒙つた。よつて、これが慰藉料は金三〇万円をもつて相当とする。

(四)  原告晃一の損害

原告晃一は本件事故により右眼を失い生れもつかぬ不具者となり、義眼を挿入したけれども今後長い生涯片眼のため受る苦痛や不便は言語に絶するものがあり、いたいけな童心に与えた肉体的精神的苦痛は計り知れないものがあり、これらの事情を綜合すると同原告に対する慰藉料は金一、〇〇〇万円が相当である。

五、一部弁済

被告神林は昭和四四年三月一三日ころ見舞金として金三万円を、被告らは自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という。)から同年三月一五日金一〇万円、同年四月二日金一〇万円、同年同月二五日金三〇万円、同年五月二〇日金三〇万円合計八〇万円を原告らに支払つたほか、原告晃一は昭和四五年四月末頃自賠責保険から金八七万五、三九九円の支払を得たので、原告久夫の分として金六三万円、原告京子の分として金二〇万円また、原告晃一の分として金八七万五、三九九円を内入充当した。

六、結論

よつて、被告ら各自に対し、

(一)  原告久夫は前記四の(一)の合計金一四七万五、〇三二円から一部弁済を受けた金六三万円を控除した金八四万五、〇三二円、

(二)  原告京子は前記四の(二)の合計金一三五万九、八六二円から一部弁済を受けた金二〇万円を控除した金一一五万九、八六二円、

(三)  原告真弓は前記四の(三)の金三〇万円、

(四)  原告晃一は前記四の(四)の金額から一部弁済を受けた金八七万五、三九九円を控除した金九一二万四、六〇一円、

および右各金員に対する本件事故発生の日である昭和四四年三月一一日以降支払済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴に及んだ、

と述べた。

被告らは、いずれも「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として、次のとおり述べた。

被告神林訴訟代理人は、

一、請求原因第一項は認める。

二、同第二項中、本件事故の発生したことは認めるが、衝突の状況は否認しその余の事実は知らない。

三、同第三項中(一)の被告神林が飲酒して運転したことは否認する。

四、同第四項中(一)の(1)ないし(11)は認め、同(12)、(15)の(イ)は一部認め、同(13)、(16)の(ロ)は否認、同(14)に知らない。同(二)の(1)ないし(4)は認め、同(5)、(7)の(ロ)は否認、同(6)は不知。同(7)の(イ)は一部認める。同(三)、(四)は一部認める。

五、同第五項は認める。

と述べ、本件事故は原告久夫が定員二名の原告車に原告京子、同真弓、同晃一の三名を乗せ、しかも右折するに際し被告車を一〇〇米後方にバツクミラーで確認しただけで右折直前には安全の確認をしなかつた不注意があるから、原告らの損害にあたつてはこれを斟酌すべきである、と附陳した。

被告会社訴訟代理人は、

一、請求原因第一、二項は知らない。

二、同第三項の(二)は否認する。

三、同第四、五項はすべて知らない。

と述べ、被告会社が原告神林らを指揮監督して品物を運搬させたことはないし、本件事故も被告会社と何ら関係はない。したがつて、被告会社が被告車の運行供用者として、あるいは民法七一五条に基き被告神林の使用者としての損害賠償責任があるとの点は争う、と述陳した。

被告藤田、同大黒は、

一、請求原因第一、二項は知らない。

二、同第三項の(三)は否認する。

三、同第四、五項は知らない。

と述べた。

被告佐川訴訟代理人は、

一、請求原因第一、二項は知らない。

二、同第三項の(四)のうち、被告佐川が売買契約の保証人となつたことおよび被告車の責任保険の保険契約者であることは認めるが、その代金を支払つたとの点および被告車の共同購入者であるとの点は否認する。

三、同第四項は否認する。

四、同第五項の弁済の点は不知、弁済充当は争う。

と述べ、被告佐川が被告車の保険契約者となつたのは被告車の車体検査証の交付に際し被告神林の依頼を受けて一時名義人となつたものにすぎず、また、被告佐川は被告車のもとの所有者である訴外菊地晃男に対して被告神林から毎月被告車の月賦代金を受取つてこれを訴外菊地に交付していたにすぎないから、いかなる点からしても被告車の運行供用者ということはできない、と述陳した。〔証拠関係略〕

理由

第一、被告神林に対する請求

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

二、本件事故発生の事実については当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、被告神林は被告車を運転し、新潟市方面から白根市方面に向け時速約五〇キロメートルで進行中、被告車のカーステレオの流行歌に気をとられて道路前方左右を注視すべき注意義務を怠り、原告車が右折の合図をしながら道路中央へ進出しようとしているのに気づかず、被告車との距離約一三米に迫つてはじめて発見した過失により、とつさに急制動も間に合わないと考えてハンドルを右に切つて被告車を追い越して衝突を避けようとしたが及ばず、被告車の左側面前部を原告車の右側前部に衝突させて同車を横転させ、その結果、原告久夫に対し脳震盪症、後頭部打撲傷(皮下出血)、右肩胛部打撲傷、右胸背部打撲症(皮下出血)、尾首打撲傷の各傷害、原告京子に対し胸震盪症、右前頭部打撲傷(皮下出血)、下口唇裂創、左手背部打撲傷(皮下出血)、原告真弓に対し両側膝関節打撲症(皮下出血)、原告晃一に対し右眼球破裂、上下眼瞼裂傷による眼球内容除去の各傷害を負わせたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

三、被告神林は、本件事故は原告久夫にも過失がある旨主張するけれども、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

四、してみれば、被告神林は原告らに対し後記損害を賠償すべき義務がある。

第二、被告会社に対する請求

一、〔証拠略〕を綜合すれば、原告らの身分関係、本件事故の発生および本件事故による原告らの受傷部位、程度は前記各認定事実のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、原告らは、被告会社は被告車の運行供用者であると主張し、被告会社はこれを争うので案ずるに、〔証拠略〕によれば、被告神林は本件事故当時被告藤田、同大黒と共同で出資して訴外太平興業から被告車を買い受けていわゆる闇運送をしていたが、本件事故当日被告会社の従業員西山昭吾から東京から資材のパイプを積んで新潟まで運送してもらいたい旨電話で連絡を受けてこれを承諾し、被告藤田と共に同日午後九時ころ被告会社に赴き同社の守衛が保管していたオーダー(運送の依頼状)をもらい受けて東京へ向けて出発し、その途次本件事故を惹き起したものであることが認められ、右認定に反する〔証拠略〕は前掲各証拠に照らしてにわかに援用することができず、逆に右認定を覆すに足る証拠はない。

右認定事実によれば、被告神林、同藤田は被告会社の依頼によつてパイプを運送する目的で被告車を運行したものであることは容易にこれを認めることができるのであるが、しかし、右事実から直ちに被告会社が被告車の通行供用者であると断定することはできないものといわなければならない。すなわち、自賠法三条の運行供用者というためには当該車両の運行について運行利益の帰属と運行支配を具備すべきものと解すべきところ、被告会社は被告神林らに対してパイプの運送を依頼したに止まり、いまだ被告車の使用についてこれを被告会社の支配下においたものということはできないからである。もつとも、運送業務について、被告会社と被告神林らとの間に、例えば被告神林らが専属的に被告会社の運送業務を担当し、いわば被告会社の運送部門の全部もしくは一部を分担するというような事実上の密接な関係があるような場合には被告会社は運行供用者であると認められるであろうが、被告会社と被告神林らとの間に前記認定事実以上の密接な関係の認められない本件においては貨物の運送を依頼したという事実から被告会社に運行供用者としての責任を課することは困難であるといわざるを得ない。

また、原告らは被告会社には民法七一五条にいう使用者責任があると主張するけれども、前記認定事実によれば、被告神林は被告会社の使用人でないこともまた明らかであるので、これを前提とする原告らの主張は採用できない。

してみれば、原告らの被告会社に対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。

第三、被告藤田、同大黒に対する請求

一、〔証拠略〕によれば、原告らの身分関係、本件事故の発生および本件事故による原告らの受傷の部位、程度は前記認定事実のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、〔証拠略〕によれば、被告藤田、同大黒は被告神林と共同で出資して訴外太平興業から被告車を買い受けて右被告ら三名で新潟、東京間の貨物のいわゆる闇運送をしており、平均四〇万円程度の月収を得ていたことが認められ、右認定に反する被告神林の本人尋問の結果はにわかに信用できない。

三、右認定事実によれば、被告藤田、同大黒は被告神林と被告車を共同購入してこれを所有していたものであるから、自賠法三条にいう運行供用者として後記損害を賠償する責任がある。

第四、被告佐川に対する請求

一、〔証拠略〕によれば、原告らの身分関係、本件事故の発生および本件事故による原告らの受傷の部位、程度は前記認定事実のとおりであることが認められ、右認定に反する証拠はない。

二、原告らは被告佐川は被告車の運行供用車であると主張し、被告佐川はこれを争うので案ずるに、被告佐川が、被告神林らが前記認定のとおり訴外太平興機から被告車を購入するについて売買契約の保証人となつたことおよび被告車につき自賠責保険の保険契約者であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、被告佐川は自動車の損害保険の代理店である訴外丸山商事株式会社に勤務していた関係上当時の取引先である訴外菊地晃男の従業員であつた被告神林と知合い親交を重ねるようになつたこと、右菊地は所有権留保のまま買い受けた被告車を使用していたところ破産したため被告神林が買主の地位を譲受けることとなつたが、被告神林には経済的に信用がなかつたことから買主名義を訴外丸山商事の顧客である訴外児玉富美夫、保証人を被告佐川として売買契約を締結し、実際上は被告神林らがこれを買受けてこれを使用し、右売買の割賦金は被告神林らの前記運送による収益から毎月被告佐川に交付し、被告佐川が前記児玉の預金口座に振込んで支払つていたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

もつとも〔証拠略〕によれば被告佐川は本件事故直後事故現場に赴いたほか、業務上過失致傷の現行犯として逮捕された被告神林と接見していることおよび原告神林の刑事事件の公判廷において被告佐川は原告らに対し金一三〇万円くらいの賠償金を被告大黒らと共に支払うことを証言していることが認められるけれども、これらはいずれも被告佐川が売買契約につき保証人となるなどの労をとつた被告車の事故に関することであつたため被告神林の相談に応じたり、同被告の罪の軽からんことを期待して証言したものであつて、これらの認定事実をもつて被告佐川が被告車の共同購入者であり自賠法三条に謂う運行供用者であると断定することはできない。

してみれば、原告らの被告佐川に対する本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当である。

第五、損害

一、原告久夫の損害

(一)  〔証拠略〕によれば、原告久失はいずれも本件事故の結果請求原因四の(一)の(1)ないし(11)および(12)の(イ)、(ロ)記載の支出を余儀なくされたことが認められ(被告神林に関しては右の(1)ないし(11)の点は当事者間に争いがない。)、右認定に反する証拠はない。

(二)  〔証拠略〕を綜合すれば、原告久夫は本件事故により入院および通院したためその日常生活において諸々の雑費を必要としたことが認められるところ、これが損害は一日金二〇〇円として五五日分の合計金一万一、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(三)  〔証拠略〕を綜合すれば原告は株式会社真柄商店に勤務し本給三万四、〇〇〇円を支給され、右本給に付加給を加算すれば、昭和四三年度には年間五七万八、七〇〇円の給与所得があつたことおよび本件事故の結果本件事故当日から同年五月末まで同社を欠勤し、そのため同原告主張のとおり合計金一〇万一、一〇〇円の給料を得ることができず、同額の損害を蒙つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  〔証拠略〕を綜合すると同原告は本件事故により前記傷害を負つて同年四月二九日まで入院した後同年五月中旬まで通院し、さらに温泉療法を試みたけれども頭部、肩部に疼痛があつていまだ完治しないことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば、原告久夫の請求し得べき慰藉料額は金三〇万円が相当と認める。

(五)  原告晃一は、前記認定のとおり、本件事故のため右眼を失つたものであるところ、〔証拠略〕を併せ考えると、原告久夫は右晃一の父としてれんびんの情に耐え難い日々を過ごし、同人の将来について心痛していることが窮われるので、これが父としての慰藉料は金三〇万円が相当である。

二、原告京子の損害

(一)  〔証拠略〕によれば、原告京子はいずれも本件事故の結果、請求原因四の(二)の(1)ないし(4)記載の支出を余儀なくされたことが認められ(被告神林に関しては以上の事実は当事者間に争いがない。)、右認定に反する証拠はない。

(二)  〔証拠略〕を綜合すれば、原告京子は本件事故により入院および通院したためその日常生活において種々の雑費を必要としたことが認められるところ、これが損害は一日金二〇〇円として三〇日分の合計金六、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(三)  〔証拠略〕を併せ考えると、原告京子は昭和三八年ころから美容院を経営し平均約二万七、〇〇〇円程度の月収があつたことおよび本件事故の結果本件事故当日から二週間入院した後通院等のため同年五月末まで美容師として働らくことが出来なかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。してみれば、同原告は本件事故の結果合計金七万二、〇〇〇円の収入を得ることができず、同額の損害を蒙つたものと認めるのが相当である。

(四)  〔証拠略〕を綜合すれば、同原告は本件事故により前記傷害を負つて二週間入院したのち五月中旬まで通院し、さらに温泉療法を試みたけれども、頭部、肩部に疼痛があつていまだ完治していないことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば、原告京子の請求し得べき慰藉料額は金三〇万円が相当である。

(五)  原告晃一は、前記認定のとおり、本件事故のため右眼を失つたものであるが、〔証拠略〕を併せ考えると原告京子は同人の母として、原告久夫と同様、同人の将来について心痛していることが窮われるので、これが母としての慰藉料は金三〇万円が相当である。

三、原告真弓の損害

〔証拠略〕を綜合すれば、原告真弓は本件事故により前記傷害を負つて同年三月二〇日まで入院したことおよび、同原告は昭和四〇年一月三日生の小児であつて本件事故による精神的打撃が大きかつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば同原告の請求し得べき慰藉料額は金二〇万円が相当と認める。

四、原告晃一の損害

〔証拠略〕を綜合すれば、原告晃一は本件事故により前記傷害を負い、現在義眼を挿入していることが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によれば、同原告は将来片眼のため多大な不便を蒙るであろうことは想像に難くなく、本件事故のためいたいけな同原告に与えた肉体的、精神的苦痛はまことに測り知れないものがあるというべきところ、これらの事情を併せ考えると同原告に対する慰藉料は金三〇〇万円が相当である。

第六、一部弁済

〔証拠略〕を併せ考えれば、被告神林は原告らに対し昭和四四年三月一三日ころ見舞金として金三万円を支払い、その後原告らは自賠責保険から同年三月一五日金一〇万円、同年四月二日金一〇万円、同年同月二五日金三〇万円、同年五月二〇日金三〇万円の給付を受けた(被告神林に関してはこの点につき当事者間に争いがない。)ほか、原告晃一は昭和四五年四月末頃自賠責保険から金八七万五、三九九円の給付を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。ところで、右認定が事実によれば、原告晃一の給付を受けた右金八七万五、三九九円は他の原告らには無関係のものであるからこれを原告晃一の右損害額に充当すべきであるが、その余の見舞金および自賠責保険からの給付金はどの原告のどの損害に充当されるべきかについて右保険金の査定内容が何ら主張立証されていない本件においてはこれを右損害金の額に応じて按分し、その按分された金額を当該原告の損害に充当すべきものと考える。

そこで右の計算方法に基きこれを原告らの損害額に充当すれば、原告久夫については金二〇万五、六九六円、原告京子については金一八万一、七〇六円、原告真弓については金三万八、一三九円、被告晃一については金四〇万四、四五九円を各充当すべきことになり、結局、各原告の本件損害から右各充当額を控除した後、すなわち、原告久夫は八六万九、三三六円(但し同原告は八四万五、〇三二円を請求をしているのみであるから本件における認容額も右の程度にとどまらざるを得ない。)、原告京子は金七七万一、一五六円、原告真弓は金一六万一、八六一円、原告晃一は金一七二万〇、一四二円が請求し得べき本件事故の損害である。

第七、結論

よつて、被告神林、同藤田、同大黒の三名に対し、原告久夫が金八四万五、〇三二円、原告京子が金七七万一、一五六円、原告真弓が金一六万一、八六一円、原告晃一が金一七二万〇、一四二円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四四年三月一一日以降各完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において原告らの本訴請求は理由があるのでこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 泉山禎治)

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